【ステンレス製　お香立て】リーフ型

朝6時の日課は愛犬ジョンとの散歩だ
5年前までは愛娘との時間であったが、今はひとりである
世間は私に優しく貫禄が出たと言ってくれるが、
これは完全に、加齢と自分を甘やかしてきた事が如実に現れた結果だ

昔はスクリーンから飛び出たようなイイ男であった
(はずである)
男子学生の頃は黄色い声の花道を歩きながら登校した(はずである)
愛妻もずっと目がハートである(はずだ)

　1時間の散歩から帰宅すると朝のダイニングは騒々しい。
愛妻は鬼軍曹と化し、朝ご飯の支度と弁当作りにキッチンは戦場となっている
愛娘はというと…昔は可愛らしい寝グセがぴょこんとはねたままの登校であったのに、今は髪のセット・眉毛の形…スカートの丈に勤しんでおり何だかお父さんは寂しい。
　
「ただいま！」

私の声が届くはずもなく、
2人は千手観音のような手捌きで各々支度をしている。
　そんな中、散歩から帰宅しコーヒーを飲んで経済新聞を読んでいる私の近くで毎日行われる事がある。

一通り準備を済ませた愛娘が私の座っているソファ近くのサイドテーブルにお香を焚いてくれるのである。
　
「今日もありがとう」

愛娘に向かって言うと…

「だってお父さんくさいんだもん」

ん？んん？
………。イマナンテ？
「おおおお父さんくさい！？えぇ？」

「だからぁ、お父さん最近くさいんだってば(笑)
このまま会社行ったらみんな嫌がるでしょ？
お父さん香水付けないし、だからこうやって毎朝お香焚いてるんだよ。」

愕然とした、、とうとうこの日が来てしまった
少し世代が上の上司や先輩から聞いたことがあるこの恐怖のフレーズ…

「お父さんくさい」

確かに年はとった。脂も乗って、年齢の割にはやはり男前(なはずであって)マイク眞木を想像させるナイスミドルだと思っていた。
柿渋石鹸も愛用している

しかし…！現実は冷たいものであった

愛娘の言葉が脳内を駆け巡り、いくつか思い当たることがある

　社内の皆が夕方になると少し距離を置いている
(ような気がする)
　おしゃれ感度の高い社員A子は、私と話す時やたらと鼻に手をあてている(ような気がする)
　
やはり、、私は中年のニオイ…
俗にいう「加齢臭」というものに侵されているのか

　今日出社したら社員の動向を観察しよう

「いってきます」

私はいつもより肩を少し落としながら出社した

「おはよう！」

皆はいつも通り気持ちよく挨拶を返してくれる。
朝は大丈夫だ。
A子も書類捺印のために私の部屋へ来ているが鼻に手をあてる素振りもない。
(良かった)

加齢臭を気にしつつ昼食をとる。
油物は控え蕎麦にしてみた。

昼食から戻り、いつも通りみんな真面目に業務に取り組んでいる。有難い。
午後からは工場内の見廻りだ。
工場長から職人、若手たちもいつも通り張り切ってくれている。つくづく感謝の念が湧いてくる。

一通り、見廻り・声かけ・ものづくりの進捗を確認してから自室に戻り、事務作業開始だ。

　しばらくして3時のお茶が運ばれてきた。

「いつもありがとう」

社員に声をかけると、何だか様子がおかしい…
どうした？怒っているのか？

……。ハッ！！！

待ってくれ、息を止めているじゃないか！(と見える)

社員が私の部屋を出てから私は脂汗が出てきた
やはり、私の加齢臭なるものは殺傷能力が高いのか

イヤな汗が吹き出る
ニオイが充満する
皆に嫌がられる
(物理的に)距離を置かれる

私の脳内は「加齢臭」の三文字でいっぱいになった。

これは至急対策を練らなくては。

そうだ！今朝の出来事！
愛娘が毎朝焚いてくれているお香！
……私の部屋にもお香を焚くのはどうだろう？

思い立ったが吉日と言わんばかりに、私が女性ならば完全に惚の字であろうイケメン社員ことイケ男を呼び出し、事の始終を伝える。
すぐさま、おしゃれかつどんなインテリアにも社内にもマッチする「お香スタンド」を作ってもらう事にした。

待つ事1時間

5種類ものお香立てが私のところに届いた

相変わらず顔も爽やか、やる事スマート、オーダー以上の働きをしてくれるイケ男…

娘の彼氏にぜひ…
いや！いかんいかん！お父さんは許さん！

しかし、出来上がった作品はどれも素敵だ。

私は近所の雑貨店で購入してきたローズヒップのお香をドキドキしながら立て、いざ点火

ほわりと煙が立ち昇り、
加齢臭で満ちていた空気が浄化されるようになんとも言えない癒しの空間と化した

そんな折、鼻をさすりながら入ってきたA子
部屋に入るなり

「なにこれ！めちゃいいにおい！！
やだ！かわいいー！これどうしたんですか！」

イケ男にまた救われた…

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